最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)1929号 判決 1955年8月02日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人中野善兵衛の弁護人岸達也の上告趣意第一点について。
所論は原審で主張がなく原判決の判断を経ていない事項である。
のみならず第一審第四回公判調書(昭和二八年二月九日の分)によれば検察官は一乃至八二の書証(主として参考人の供述調書)の証拠調を請求したところ、これに対する弁護人の意見は次回にしたい旨の記載があり、次の第五回公判調書(同年二月一八日の分)によれば、被告人中野善兵衛の主任弁護人関田政雄、被告人秋田吉治、同石橋福松の弁護人本城亀夫、被告人北口庄治、同吹田米太郎、同麻野佐重郎に主任弁護人伏見礼次郎、被告人太田好一、同宮野健太郎、同重田敏夫の主任弁護人大井勝司が出廷し、前回の各書証に対する意見の陳述として、関田弁護人は一乃至五一につき、本城弁護人は五二乃至五八につき大井弁護人は五九乃至七〇につき、伏見弁護人は七一乃至八二につき、夫々分担してその意見を陳述し、それぞれその分担した書証について、或る者は証拠とすることに同意し、或る者は不同意の旨陳述し分担以外の書証については何ら意見を陳述していない。そして、第一審判決第二の(イ)の証拠とした池田玉恵(五四)、辻村カネ(五五)、武田原一(五六)、米田範和(五七)、樋口一馬(五八)、の各司法警察職員に対する供述調書は、本城弁護人において証拠とすることに同意する旨述べている。そして右は取調済の記載がある。
してみれば右各供述調書は、全被告人の為証拠とすることに同意があったものと解すべきである。何となれば右書証(一乃至八二)中には被告人の供述書はなく、皆参考人のものか又は差押調書であって、それについて、かように共同被告人とその弁護人が同じ公判期日に在廷して数名の弁護人が書証を証拠とすることに同意不同意の意見を表示するに当り、弁護人が各分担を定めて意見を陳述し、そして他の弁護人はそれ以上同意不同意の意見を陳述しなかった以上は(弁護人がそれ以上意見を陳述することを妨げられないで証拠調を終了した限り)、各弁護人協議の上、自己の代理する被告人に最も関係深い書証の同意不同意を他の各弁護人に代り陳述したもので、その効果は全被告人に及ぼす趣旨と解するのを相当とする。
各被告人等の供述調書については、第一審第九回公判調書(同年三月一八日の分)によれば、各弁護人は「各調書は当該被告人に対する証拠としてのみ同意、他の共同被告人に対する証拠としては不同意」と明白に陳述したことが記載されているのに、右第五回公判調書にはかゝる記載がないことに照しても右の趣旨に解するのを相当とするといい得る。
又、植村ス江、田口シマ、秋田ツネの各供述調書は、第一審第八回公判調書(同年三月一一日の分)の一部をなす添付の「証拠の標目」の欄(記録第二冊六一二丁)に、右書証は全部同意と記載されていて、同日出頭した各主任弁護人全部がこれを証拠とすることに同意している。
又、第一審判決第三の(イ)の事実の証拠とした安井義樹(五九)、田村藤吉(六〇)、西岡丑蔵(六一)、塚本峰次(六二)、田村信次(六三)、田村寛次(六四)、の各司法警察職員に対する供述調書及び同判決第三の(二)の事実の証拠とした、今沢清治(七一)高田克実(七二)、植村信次郎(七三)の各司法警察職員に対する供述調書も前同様それぞれ大井主任弁護人並びに伏見主任弁護人が全被告人のために証拠とすることに同意し、右取調済の記載がある。
又同判決第三の(ハ)の証拠として、仲庭光雄の司法警察職員に対する供述調書は、第一審第八回公判調書(同年三月一一日分)の一部をなす証人仲庭光雄の供述記載部分の中で、各弁護人が証拠とすることに同意し、且証拠調をした旨記載がある。(記録二冊五九一丁)
そして以上の書証はすべて、公判廷で証拠調がなされているから所論判例違反の主張はその前提をかくものである。
すなわち論旨は上告適法の理由とならない。《第二点以下略》
よって同法四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)